「茶室建築は、自然と一体化した建築であるというのが、非常に興味深いところだと思います。自然と非常に密接な関係を持ちながら、そのもとで人が平等に相対する。そういうところが、茶室建築の魅力です。そして茶庭は、かつての京都あるいは堺といった、人口密度の高い街なかで発達した形式。狭いながらも、どのように自然を取り入れるのかを考えて作られています。ひとが歩く通路としての飛び石が、どのように打たれていて、庭の中をどういう風に歩いていくのか、というところがまずひとつの見どころです。有斐斎弘道館のような建物は、数寄屋(すきや)建築と呼ばれます。これは突き詰めると奥が深くて幅の広い言葉ですが、簡単に言うと「茶の湯に影響を受けた建築」でしょうか。茶室建築というのは、非常に小さく、素朴なものです。その考え方に影響を受けた建築を数寄屋建築といいます。また、近代の建築では照明器具が非常に大切ですが、数寄屋建築を鑑賞される場合は、ぜひ照明を落としてご覧いただきたいと思います。外からの光が窓、障子を通して、非常に美しく入ってきます。光のうつろい、光そのもの、陰影さえも非常に美しく見えるはずです。こういったところも、数寄屋建築を鑑賞する醍醐味です。大きな自然と優れた建築が一体化した、素晴らしい空間。これが茶の湯空間といえるでしょう。いろんな魅力があると思いますので、みなさん、ご自分が見たいところから、少しずつ幅を広げていってみてください。奥の深い、幅の広いのが茶の湯空間。ぜひ、数多くの茶室を訪れてみてほしいと思います。」
京都工芸繊維大学大学院卒、東京大学博士(工学)。建築史家・一級建築士。現在は京都建築専門学校で副校長、公益財団法人有斐斎弘道館 理事も務める。日本建築学会 日本建築和室の世界遺産的価値WG 委員。専門/建築歴史意匠、伝統建築保存活用、茶の湯文化。主な著書:近代の茶室と数寄屋(単著)、世界で一番やさしい茶室設計(単著)、茶の湯空間の近代(単著)、和室学(共著)、茶室露地大事典(共著)など